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ナタリー
東京オリンピックが決まった瞬間、ガッツポーズ
──今作は約8年ぶりのソロ作品とあって、やっとCD化される楽曲もたくさんありますね。
そのときそのときは全力投球で作ってたんですけど、実際にまとめて聴いてみると、感慨深いものがあるというか、いろいろな思いにふけりますね。通して聴いてみたらズシンと来ました。
──あと今回のアルバムが面白いのは、先ほど冒頭でおっしゃったように万博の公式イメージソングをはじめ、みんなが集まるような場所、祭典のようなオフィシャルな場所で演奏される曲をたくさん収録していますよね。今後もやはりYOSHIKIさんは、そういう場に向けて楽曲を提供するということに大きな意味を感じますか?
そうですね。もともとロックミュージシャンって、なんか「反○○」みたいな反抗的な姿勢が多いと思うんですよ。だけど僕の場合はあまりそういうのがなかったんですね。自分に対してとか、ちょっと違った意味での反抗的なところはあったと思うんですけど。だから自分の音楽を伝える場を与えてもらえるっていうのはすごく光栄なことだと思ってます。音楽家として今までやってきたこともそうですし、これからもそういう場があるならば、積極的に参加していきたいとは思っています。
──特に震災以降は、人の心のよりどころになるような音楽が求められていると思いますが、そういう曲を作ることについてはどう思いますか?
3週間ぐらい前に石巻に行って、実際に現場を見てきたんですけど。
──初めて行かれたんですか?
YOSHIKI
はい。僕はもともと自分で基金を持ってまして、ライフワーク的にチャリティ活動をやってるんですが、震災に対しても自分のペースでいろいろやってきました。でも今回、実際に現場へ行って、つらい出来事だから明るい曲が必要だというわけじゃないと思いましたね。自分が父親を失ってすごい悲しみにふけっているときにも、あんまり楽しい曲が入ってこなかったりしたんですけど、でもロックがガンッときてハマッたんです。音楽療法っていうのも少し勉強してるんですが、どういう音楽がどういう人に作用するかは結局、人それぞれなんですよ。人によってはヒップホップを聴くとすごくハッピーになるとか、クラシックを聴くと能率が上がるとか、そういう人もいる。本当にもうデスメタルみたいなものがいい人もいると思うんですよね。だから一概に言えないですよね。
──そうなると、先ほどおっしゃっていたような普遍性のある音楽というものの落としどころが難しくなってきますね。
そうですね。でも自分がいいと思ってる音楽とみんながいいと思う音楽があまりにもズレているなら、たぶん僕は今ここにいないと思うんですよ。デビューしてからもう20年以上、自分の人生の3分の2ぐらいは音楽家としてやってると思うんですけど、今回のアルバムもクラシックチャートとはいえ、10カ国で1位を獲っている。だからまあ、ズレてないんだなって思います。あとは、こういうクラシカルなものってやっぱり世界中に伝わるんだなって思えたのが今回はうれしかったですね。
──なるほど。確かにおっしゃる通りです。今は2020年の東京オリンピックの話題もありますから、そういう機会にまた曲を作っていただけたら多くの人が喜ぶでしょうね。
そうですね。でも日本には素晴らしいアーティストがいっぱいいると思うので、その中に入れていただいて曲を書ければ、とても光栄な話だと思います。実はオリンピックの開催地が東京に決まったとき、たまたま日本にいたんですよ。すごい時差ボケでなんか眠れないなと思って起きてたら発表の特番をやってて、ずっと観てました。決まった瞬間はやっぱりガッツポーズでしたね。
──日本の音楽の状況とかもご覧になっていているんですね。
すごく意識してるわけじゃないんですけど、まあやはりきれいなメロディの曲がすごく売れるんだなって思っています。でも日本って国内の楽曲がチャート上でめちゃくちゃ強いですけど、日本の音楽も別にそんなにズレてるとは思わないんです。やっぱりいい音楽は売れてるんじゃないかなと思います。
波に乗るのではなく、波を作ってきた
──あとぜひ伺っておきたいのは、X JAPANのアルバム制作の状況です。前にナタリーでインタビューさせていただいたとき(参照:YOSHIKI(X JAPAN)単独インタビュー)から、その後の進捗はどうですか?
紆余曲折をしながら確実に前に進んでると思います。X JAPANの場合は楽曲制作に入る前にマネジメントとかいろんなことをやらないといけないので、まあ大変は大変ですね。
──普通より工程が多いんですね。
でも、そういうことをファンの人たちにもあまり言えないですよね。SNSとかを見ていると、クラシックアルバムなんか出さないで早くX JAPANのアルバムを出してとかそういう意見も来るんですけど(笑)。それに対して僕も本当にそうだなと思うんです。この事情を全部知らなければ、そう言われても仕方がないというか、今回のアルバムを出すことになった時点で覚悟してました。まあ、「王様の耳はロバの耳」ってあるでしょ。穴を掘って、言えないことを思いっきり言いたいっていう。そのくらい事情を話せたらどれくらい楽なのかなって思いますね。まあ、それはもう全部受け止めて溜め込みながら、そのエネルギーを楽曲にぶつけるしかないんですけど。SNSで「みんな何もわかってない」みたいな反論してもしょうがないじゃないですか。たまに酔っ払ってTwitterとかでバーッと訳のわからないことを書いて、マネジメントの人たちとかに「何をやってるんですか、やめてください」って言われますけど(笑)。
──そうやって時間をかけながら作るのは、“X JAPANのアルバム”が“時代性とは無縁の価値観で出すもの”だからですか? それとも時代を意識してアルバムを作ることもあるんでしょうか。
いや、自分的には昔から波に乗ってきたっていう気は一切ないんですよね。波を作ってきたとまで言っちゃうとちょっと言い過ぎかとも思うんですけど、どっちかと言うとそっちに近いと思うんで。こういう音楽を投げかけて、あとはその時代がついてくるかこないかみたいな。
──なるほど。時代性に合わせて作っているわけではなくて、むしろ新しいものを世に問うところがあるということですね。
YOSHIKI
そうですね。暗黙のうちにできてしまった古いルールっていうのが僕は嫌いなんです。10数年前にアメリカに行ってアトランティックレコードと契約したときも、X JAPANのようにスラッシュメタルっぽいのとああいうメロディを組み合わせて、でもバラードをやったりもするアルバムっていうのはやっぱりアメリカじゃ考えられなかった。アメリカにはそういうバンドって、いまだにあんまりないと思うんですよ。契約したときにも、やっぱり方向性を定めたほうがいいと言われました。「今まで日本でどういうことをやってきたかどうかわからないけど、アメリカというのはこういうものなんだ」って。そうなのかな?って疑問に思っていたんだけど、実際はそのままの状態でアメリカとか海外のファンに伝わっていったので、やはり自分は間違ってなかったんだなって思いますね。
──最初のお話に少し戻りますけど、今の社会や市場の状況を見て作るのではなくて、やはりアーティストとしてのクリエイティブを世に投げかけるという姿勢があるんですね。
その結果、いまだにX JAPANの「紅」みたいな曲が聴かれてるのは自信が付きますね。ただサウンド面に関しては、その時代のいいものを取り入れていっていいんじゃないかって思います。例えば僕はアナログにもすごくこだわるし、デジタルにもこだわる。いまだにアナログのテープでしか録音したくないみたいなアナログ派の人もいますけど、僕はアナログテープにいったんレコーディングして、すぐにデジタルに落として編集したりするんですよ。アナログ派は気持ちのこだわりが強いのかなって思ったりもしますけど、そのへん自分は論理的にやっていっちゃう。
──録音にもこだわっているからこそ、アナログかデジタルかというような単純な分け方じゃなく、柔軟にいいところを選んでいくんですね。
そうですね。両方ともいいところっていうのはあると思うので。やっぱりアナログの波形というか、あの温かみはデジタルではやっぱり出せないですしね。でもデジタルのスパーンって来るあのシャープさはアナログでは出せない。僕にとってのロックとクラシックと同じような感覚ですね。
──YOSHIKIさんは、2つのジャンルのリスナー同士を橋渡ししたいと思っているんですか?
こういうこと言っちゃまた怒られるかもしれないけど、自分の場合は、どこまでが仕事でどこまでが趣味かわからないですよね。つまり、好きなことをやっているという感じだと思うんです。だから別に橋渡し的な役割を果たしたいっていう気持ちじゃなくて、もっと自然とやっています。でもそうやって好きで作った音楽が、最終的に聴いてくれた人にとって、ジャンルを橋渡しするようなものにもなればいいなと思っています
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